豊饒の秋
                〜 砂漠の王と氷の后より

        *砂幻シュウ様 “蜻蛉”さんでご披露なさっておいでの、
         勘7・アラビアン妄想設定をお借りしました。
 


乾いた砂漠の地でも、
手をかけて育てれば、それなり果実は実るようで。
いちじくの実にザクロの実、
しっかとした果樹が育つ地域には、
オレンジなぞ育てるところもあり。
泡立てた玉子の白身とキビ糖を合わせて とろとろ煮溶かし、
小麦を粉に挽き、山羊の乳を馴染ませて焼いた菓子の表へ塗ってと。
それは甘い化粧をなした特別の焼き菓子と共に、
海の向こうの遠国から、これも特別な早馬で届けられたは。
固い殻の中にみずみずしい果肉の隠れたライチに、
古代王朝の女王が愛したとされる、淡い緑のマスカット。

 「今少し刻が経てば、
  様々に醸造された酒の美味いのも集まるのだがな。」

あの嫋やかな風貌で、
実は どんな豪傑にも引けを取らないシチロージならまだしも、
お主はあまり、酒精を嗜む方ではなかったから。
その代わり、実りがあってこその果実や菓子を運ばせたぞと、
なんで彼が威張るものか、鼻高々な言いようで連ねつつ。
香草と香料とを添え、程よく炙った、
柔らかでみずみずしい若羊の肉を丁寧に裂いて、
磨き込まれた真鍮の皿へと取り分ける手際がいいカンベエなのが、
第三妃には ちょっぴり意外だったのか。

 「………。」
 「? 如何したか?」

幼子の背丈ほどもある、東亜から取り寄せた白陶の壷へ、
クジャクの羽を華やかに差して飾った窓辺には。
黄昏の余韻も、いまだ空に風に茜の明るさとして居残るほど、
宵と呼ぶにもまだ早い刻限の王の部屋。
そんな西の空が更紗の風幕越しに望めるテラスが、
緑豊かな庭へと向いた広間にて。
少々自堕落にも、長椅子には腰かけず、
ラグ代わりの絨毯の上へ直に、
やや横座りになって寛いでおいでだった覇王様。
通年で陽が照り、風も乾いている地域じゃああるが、
それでも此処なりの四季というのは巡っていて。
秋になれば、作物は結実し、
その収穫に人々がお顔をほころばせるのは、他所とも変わらぬ。
ここ、ご城下の街は、どちらかといや商いの方が主流じゃあるが、
だったらだったで 流通される品々が、
秋の作物や冬支度のあれこれへと様変わりを見せており。
それらのうちの出来のいいものがいち早く、
まずはと この覇王陛下へ献上されるのは判るが、

 「…うまい。」
 「だろう。」

ハンプットの親父が育てる羊は格別で、
うかうかしておると、
幾らでも高値で買い付ける北の貴族らに、
廏舎ごとという勢いで買い占められてしまうのだ、と。
一応は短い脚のついた盆の上に置かれた、
膳の一式を間に挟んだ格好のご夫婦の二人。
料理の切り分け用、細いナイフと対の長い肉刺しを、
そちらも丁寧な仕事だろう、
綺麗な浮き彫り細工に縁取られた大皿の端へと置いたカンベエへ、

 「違う。」

東亜にはよく見られる繊細な切り紙細工もかくや。
それは手の込んだ彫金細工の短冊が下げられた、
灯火用の火皿を掲げた柱の真下。
金の綿毛をふりふりと無造作に揺すぶって、
膳の置かれた向かい側から、
第三妃のキュウゾウが、
肉薄な口元をちょっぴり曲げつつ言い返したのは。
覇王様が自慢げに言った通り、
肉の質も上等だったし、
香辛料の使い方も炙り具合も、
仕上げにとかけられたソースの甘辛さも、
どれもこれも上等だったが。
それらを無粋にも潰してしまわぬよう、
温かさと芳醇な旨みを逃がさぬようにと、
それは巧みに料理を切り分けてしまったカンベエの手際を、
ついつい“上手い”と褒めてしまったまでのこと。
剣術に長けていたとて、刃物なら何でも扱えるとは限らないし、
顎の小さなキュウゾウなのを見越してだろう、
柔らかいところを小さめにと、
摘まみやすく切り分けてくれたのが、

 「……どこが。」

戦さ以外は不器用な男のすることだろうかと、
意外に思ってのつい、
声にまで出しての“上手い”と洩らしてしまった妃であり。

 「ああ。切り分けの手際の話かの?」

先程 真っ赤なヴェールをまといし年若な妃から、
しなやかな腕伸ばして、
ヴィーノをそそいでもらった金の盃を手にしつつ。
今になって 何をそうと言いたかった彼女かに気がついた、
こういうことへは鈍いまんまな壮年殿。
いかにも休息中の獅子のごとく、
半分寝転びかかったような格好になり、
長々と身を伸ばしての、脇息に肘をついたまま。
ひょいと手頃な切り身を摘まむと、自分のお口へ放り込み、
うんうんと自身でも料理の風味を確かめてから、

 「前線での食事には、いちいち給仕も付かぬ。」

何なら自分で獲物を仕留めて用意せねばならぬゆえ、
多少はな、身にもつくというものぞと。
肉の風味と合わせ甲斐のある酒なのか、
言うたそのまま口許を杯にて湿らせながらも。
いつもの味のある笑いよう、
男臭い口許をほころばせ、目許細めて微笑ったカンベエだったので。
ああ…と、キュウゾウにも合点がいったと同時、

 「………。///////」

何てときめくお顔になるかと、
こちらは素面に違いないはずが、頬を真っ赤に染めてしまわれ。

 「? 酒は使うておらぬはずだが?」
 「知らぬ。///////」

キョトンとしている覇王様の視線から、
照れ隠しもあってのこと、やや強引にお顔を逸らした烈火の姫様。
蒸したものか、小芋の添えられた皿の上、
札のように整然と並べられた炙り肉の切り身を見下ろすと。
白い指先にて 中の一つをちょいと摘まみ上げ、
かあいらしいおちょぼ口へ運んで、うまうまと堪能したのでありました。






   〜Fine〜  11.10.06.


  *何のことはない、覇王様とお妃様のお食事風景でした。
   お匙くらいはあるかもですが、
   フォークやナイフは使わないんじゃあと思い、
   王様なのに手で食べていただきましたが、
   きっとお作法にのっとった、
   口の回りもお髭も汚さずの、風格ある食べ方なのよ。
(笑)

   ……というのも、
   “沖縄の人はキビを歯で剥いて食べるのが当たり前”
   という“県民あるある”を観たことがありまして。
   とんでもなく美人の うら若きお姉様も、
   そりゃあ品のある手際の良さで、
   バリバリさかさかと歯で皮剥いて齧っておいでだったんで。
   たとえ手づかみでも、
   慣れておいでなら見苦しくはないんだろうなと。

   ところで、こちら様のお食事と言えば。
   あの赤いスープには、
   もう慣れたキュウゾウ妃なんだろか?
(苦笑)


ご感想はこちらvv めるふぉvv

ご感想はこちらvv


戻る